/ lifetools / issue 01 / 2021/3/26
fatwood
「ひとつしか道具を持てないとしたら、何を選ぶ?」
究極ともいえるモノ選び。まず考えたのは、音楽を聴くための道具。電気がなくてもつかえる蓄音機?でも他にSPレコードも必要だし、単体では使い物にならない。想像してみると他の装置はだいたい電気が必要だ。手回しラジオ?放送がなかったら、ノイズしか聴けない…。
結局、音楽を聴くにはアコースティック楽器が一番よさそう。でも僕は楽器がろくに弾けない。
道具がひとつしかない環境を冷静に想像してみると、かなりワイルドな世界。まずは生きていくことを考えないと。音楽は誰か得意な人に演奏してもらうことにしよう。
食べ物、住む場所、衣類。結局、「衣食住」が成り立たないと人間は生きていけない。そのなかで一番の死活問題は、やはり食べ物。野草や魚を採って食べることはできるかもしれない。でも生の食材をひたすら食べ続けるのは、想像するにかなり厳しい。
火が欲しい。他の動物との違いはそこだ。暖も取れるし、武器にもなるはず。こどもの時に本で見たとおぼしき原始時代の人間と火の関係を描いたイラストが郷愁を帯びたイメージとして脳内に投影される。
スピーカーづくりで使っている滋賀産の木材でお世話になっている方にお会いした時、「これ知ってます?」と言って見慣れない木の棒のような物を手渡された。色・木目・風格がふつうの木材とはかなり異なる。形状も独特。木の根っこかな。
尋ねてみると、「ファットウッド」と呼ばれる松の木の松ヤニを多く含んだ部分だそう。天然の着火剤として使われるそうだ。
ナイフで薄く削ったら、非常時の火起こしの時にとても役に立つとのこと。興味津々な僕に、「どうぞ。」とプレゼントしてくださった。
家に帰って冷静に眺めてみると、彫刻のような美しい姿にほれぼれ。
使っているうちに自然と削られシェイプした片側と、伐採時に切り出された反対側の斜めのライン。立てて置いてみると、少し傾く感じもなんとも造形的。
無作為に作られたものだからこそ、完璧と言えるほどの存在感を放っている。不意に出くわした芸術ほど心を打つものはないと思った。
そんなこんなで今回のお題のチョイスは、「ファットウッド」。最初は非常時に火を起こすための道具として想定していたけれど、本当はそのオブジェのような芸術性に惹かれていたから?…。実はあまりにもったいないので、頂いてから一度も削ったことはない。僕にとっては結局「使えない道具」なのかも…。
ともかく、このファットウッドを使わないといけないような切迫した世界とは無縁でありたい。
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