/ classics / issue 01 / 2021/03/26

Vashti Bunyan

- Just Another Diamond Day

LP record (Dicristina 2004)

originally released in 1970

写真と動物のイラストであしらわれたジャケットアートワークが、その音楽を如実に表している。牧歌的というより「英国の牧歌」そのもの。豊かな自然にかこまれたヴァシュティの日常生活から生まれた歌。アルバムタイトルを意訳すると「ダイヤモンドのようなありふれた日常」。暮らしの中で発見されたささやかな輝きがヴァシュティを通して音楽として形を変える。

このアルバムと出会った頃、僕は都市で生活していた。田園地帯に隣接したのどかな環境に住むようになった現在、自分の中で音楽の響き方が変化したように思う。ヴァシュティの音楽も少し印象が異なっている。

都市の刺激的ともいえる人工的な知覚情報がほとんど存在しない環境で暮らしていると、意識は季節や自然界へ注がれ、その些細な変化に敏感になってくる。それと同調するように、音楽を聴いたとき、音として伝わってくる音楽家の心の機微のようなものを自然と感じとり、意識するようになった。

「ただくりかえされる日常の美しさ」

現代生活をしているとすぐに埋もれてしまうけど、いつもそばで輝いているもの。ヴァシュティの歌声が、そんな真理とも思えることをさらっと伝えている。

彼女の音楽にどこか浮世離れしたようなイメージを持つかもしれないけれど、それはあまりにも素直な表現だからだと思う。逆に「現実的」ともいえるくらい表現の根幹は日常に深く根ざしている。

ヴァシュティの音楽は、1970年代のポップミュージック界で存在感をアピールするには地味すぎた。しかし、普遍的なものは消えない。20世紀最後の年にヴァシュティは再発見された。時代が彼女の音楽を求めていたのかもしれない。再び落とされた小さなしずくは今度は大きな波紋となり世界中に広まっていった。

2005年にはデヴェンドラ・バンハートをはじめとする若手ミュージシャンたちのサポートを受けて新録アルバム『Lookaftering 』をリリース。その後ライブ活動を行いながら、2014年には、ラストアルバムとされる『Heartleap』を完成させた。彼女の歌声、音楽は驚くほどに昔から何も変化していなかった。それどころか継続することにより、表現の純度が増している。ヴァシュティの日常から生み出されるささやかな表現はずっと続いていた。

『Just Another Diamond Day』が伝説的な唯一のアルバムにならなかったこと。その事実を知った現在の僕に、ヴァシュティの歌声は最初に聴いた時より、深く心に響いてくる。

/ra/